東京大学と大日本印刷 スキンディスプレイのフルカラー化に成功、薄型で伸縮自在な電子回路基板の実用化に目途
2020年07月13日
国立大学法人東京大学(五神真総長)の染谷隆夫博士(大学院工学系研究科長・教授)の研究チームと大日本印刷(以下:DNP)は、独自の伸縮性ハイブリッド電子実装技術のふるかを進化させ、薄型で伸縮自在なフルカラーのスキンディスプレイと駆動・通信回路及び電源を一体化した表示デバイスの製造に成功した(写真1、2)。この装置は、皮膚上に貼り付けたディスプレイに外部から送られた画像メッセージを表示できるコミュニケーションシステムだ。


写真1:薄型で伸縮自在なフルカラースキンディスプレイ。独自の伸縮性ハイブリッド電子実装技術で、12×12個のカラーLEDと伸縮性配線をゴムシートに実装した。


写真2:表示部と、駆動回路、BLE(Bluetooth Low Energy)通信回路、電源を一体化して皮膚に貼り付けられたフルカラースキンディスプレイ。


ウィズコロナ/アフターコロナの社会では、距離を隔てた状況でのコミュニケーションのあり方が重要になる。直接会えない、触れられない状況では、顔色の変化から察するなど、非言語コミュニケーションの要素が欠落する。つまり対面で無意識に行っていたこれらの情報処理を補う手段がこれからの社会では求められる。相手を身近に感じる効果を期待し、体表に近いところで情報を見たり、センシングしたりできる技術として、スキンセンサーやスキンディスプレイの開発が進められている。

【研究のポイント】
■曲面形状に追従できる伸縮性ハイブリッド電子実装技術で使用できる部品の選択肢が広がり、実用化に目途がつきました。この実証として、皮膚に貼って用いるスキンディスプレイの表現力を高めるフルカラー化に成功した。
■フルカラースキンディスプレイの配線の信頼性を向上し、駆動・通信回路や電源も一体化した。さまざまなものに簡易に貼り付けることができるようになった。
■情報を表示・取得するデバイスの形が変わり、伝達される情報の質も変わる。遠隔コミュニケーションでの感情伝達を補う効果を期待してスキンディスプレイを開発した。今までにない姿の応援メッセージを送るなど、情報伝達において利便性を発揮できる。

【主な研究内容】
東京大学の染谷隆夫博士(大学院工学系研究科長・教授)の研究チームとDNPは伸縮性のあるデバイスの研究開発に取り組んでいる。今回、フルカラーLEDを実装した、薄型で伸縮自在なスキンディスプレイを開発した。
電子回路基板は、かつては固い板状の基板が主流だったが、現在はフィルム状のフレキシブルな基板が広く用いられている。フィルム状の基板は曲げたり丸めたりすることはできるが、繰り返しの「伸び縮み変形」はできないため、同チームは、伸縮し、曲面に自由に追従できる電子回路基板を目指して研究開発を進めている。
伸縮変形に追従する先行の電極配線は、その素材の伸長時における電気抵抗の上昇や、繰り返しの伸縮時に断線しやすいという課題があった。また、伸縮性の高い基材上に、既存の剛直な部品を用いて電子回路を形成すると、柔軟性のある電極材料と剛直な部品の接合部が、伸縮時に蓄積する応力によって破壊されやすいという課題もあった。
同チーム独自の伸縮性ハイブリッド電子実装技術は、柔軟な基材を曲げ伸ばししても抵抗値が変わらない電極配線を可能とする。さらに、剛直な部品を実装しても伸縮時に断線しにくい工夫を盛り込んでいる。信頼性を向上させた結果、比較的大きな部品を使っても壊れにくい回路が作れるようになった。この実装技術の有効性の実証を兼ねて開発したスキンディスプレイには、12×12個(画素数:144)の1.5mm角サイズのフルカラーLEDが薄いゴムシートに2.5mmの等間隔で埋め込まれている。全体の厚みは約2mmで、130%までの伸縮を繰り返しても電気的・機械的特性が損なわれません。薄型・軽量で伸縮自在なため、皮膚に直接貼り付けても人の動きを妨げることがなく、装着時の負担が大幅に低減される。皮膚以外にも曲面を含む色々なものに張り付けることができる。
表示部の駆動電圧は3.7ボルト(V)で、表示スピードは60ヘルツ(Hz)、最大消費電力は平均100ミリワット(mW)。以前発表したスキンディスプレイは単色表示でしたが、フルカラーLEDによって9,000色以上の色表現が可能となった。また、表示エリアの外周近傍に制御回路とバッテリーも実装しており、配線ケーブルを不要とし、手の甲に貼り付けたスキンディスプレイに外部からBLE(Bluetooth Low Energy)通信で表示内容を制御できる。
曲がるだけのディスプレイは商品化済みですが、伸び縮みするディスプレイや皮膚に貼り付けることができるレベルの極薄ディスプレイは、研究開発段階の試作品が数件報告されているだけだ。同チームは、2009年5月に世界初となる伸び縮みする16×16個の有機エレクトロルミネセンス(EL)ディスプレイを、2016年8月に厚さが1マイクロメートル(μm)の極薄の有機EL素子で7セグメントのディスプレイ(用語3)を、2018年2月には、本研究の先駆けとなる単色スキンディスプレイを発表した。
同研究では、発光素子として無機半導体を発光材料としたLEDと独自の伸縮性ハイブリット電子実装技術を駆使することで、従来の伸縮性ディスプレイよりも圧倒的な大気安定性と機械的耐久性を同時に達成した。伸縮自在なディスプレイを皮膚にフィットさせ、かつ人の動きに追従させた状態で、数百個のLEDが1画素の故障もなくフルカラー動画を表示できたのは、世界初。
また、同製品は、伸縮性のある配線材料として銅を採用し、一般的な電子部品製造プロセスを用いて製造できる。産業界で実績のある量産性に優れた方法で製造が可能なため、早期の実用化と将来の低コスト化が期待できる。

【今後の取り組み】
スキンディスプレイの通信・駆動回路、電源を一体化したことにより、スタンドアローンのコミュニケーションツールとして利用できる。例えば、遠く離れたところにいる人からの応援メッセージが、あたかも自分の身体の一部に灯るかのようにLEDの発光で表示できる。その結果、SNSやメールでのコミュニケーション以上に、相手のメッセージを受け手が身近に感じる効果が期待できる。これは、コロナ禍を経た今後のニューノーマルな社会において、対面コミュニケーションでは無意識下で成立していた非言語コミュニケーション要素の欠落を補う手段として期待できる。また、表示素子や各種センサーを利用するスキンエレクトロニクスでは、かさばるデバイスを身に着けなくても、皮膚に貼りつくデバイスで身体の動きや体調をセンシングできるため、コミュニケーションをとる相手と感覚情報を共有する新たな手段を提供できる可能性がある。今後、これらの体表面に近いところで表示するセンシングデバイスのコミュニケ―ションに与える効果について検証する研究も続けていく。人に優しいスキンエレクトロニクスによって、スマートフォンやタブレット端末よりも情報へのアクセシビリティが大幅に向上し、子供から高齢者に至る全世代のQOL(Quality of Life)が向上されると期待される。DNPは、間もなくスキンエレクトロニクスの実用化検証を開始する。
同研究成果は、東京大学大学院工学系研究科とDNPの研究開発センターの共同研究によるもの。また、同研究成果の一部は、JST 未来社会創造事業 探索加速型(本格研究ACCEL型)(研究開発課題名:「スーパーバイオイメージャーの開発」、研究代表者:染谷 隆夫(東京大学大学院工学系研究科・教授)、プログラムマネージャー:松葉頼重(科学技術振興機構)、研究期間:平成29年7月~令和4年3月)の研究費助成を受けた。