大阪印刷業界が今後変化に示す「本気道」
2015年08月06日
「人と情報、知識に寄り添う」に集約

 印刷企業が各県で組合を結成して、国の指導と支援を受けながら、社会環境の改善と発展に組織的に動き出した節目の60年を迎えることから、全国各県工組で「組合創立60周年」の記念事業が開催されている。近代化促進支援法を基盤に右肩上がりに駆け上がってきた歴史に範を取るのか、革新支援法と業態変革の激動の10年に範を置くのか、60周年と向き合う主催者の開催コンセプトの考え方に注目が注がれている。
 その中で、5月22日に「未来への礎~2015大印工組の新たなスタート」をテーマに、これからの10年に視点を置いて検討された大阪府印刷工業組合(吉田忠次理事長)の未来志向コンセプトに評価が寄せられている。需要の減衰、消費者ニーズの多様化、普及するITメディアとの相克、この10年間を今後の10年間に置き換えた企業・業界の目的とミッションを、「健全な業界の姿を次世代につなげる」と集約した周年事業実行委員会の1年間にわたる集中力は、多くの業態変革マニュアルが訴え続けた指導概念とは明確に異なる「これからの印刷」の姿を描き出し、「テクニックよりも発想力」をベースとした業界絵図に多くの共感が寄せられている。
 実行委員会の総意を背景に、式典での理事長挨拶に立った吉田忠次理事長は、業界の現状を基に製造業に求められる知識、文化・文明に携わる役割を再認識するとともに、社会への変化に対応しなければならないことを訴えている。「人に寄り添い、情報に寄り添い、モノづくりを極めていきたい」と結んだ吉田理事長の「寄り添う思い」にこれからの印刷企業の姿を重ねてみた。

人と情報は誰にでも提供できる
共有化で基礎築くことも可能に

 「人に寄り添い、情報に寄り添う」という、きわめて平凡な表現の中に、吉田理事長は副理事長5名で組織する企画委員会が検討した複数のコンセプトをまとめ込んでいる。組合として何をするのか、企業として何をするのか、先を見据えた事業を示唆するためにも重要なキーワードとなるものだ。
 吉田理事長は「基本的には、人に寄り添うとは、顧客も社員もすべて一緒になって初めてわれわれの目指す業界のあり方だと感じるので、誰に寄り添うというのではなく、一般消費者や家族も含めてすべての人に寄り添うということです」と説明する。また「情報に寄り添う」という表現では「われわれはもっと勉強しなければいけないということです。寄り添ったからといって情報は入手できません。入手した情報を噛み砕いて自社で活用する。それを表現したわけです」と説明を加える。
 しかし、人と寄り添うのも、ただ寄り添っていればいいというものではない。
 「情報を提案する。情報を入手する。お客さまや社員と知恵を出していく」ためのプロセスと結果を意味する。
 「プロの情報もあれば、そうではない情報もあるので精査しなければいけません」という寄り添い方になる。
 「基本的には人と情報。企業経営は人・モノ・カネで、そこに情報を付け加える。モノとカネはどうしようもないことですが、人と情報は努力次第では十分に活用できる源だと思うので、特にここを強調したわけです」。
 言い換えれば「寄り添うとは、情報の共有です。社長が仕組みを作っていくために、その土台となる場を作る」ということなのだという。

社員年齢の若返りに課題を残す
余裕と時間が枷になる小規模企業

 決して難しいことを言っているわけではない。それをなぜあえて基本に据えるのか。これまでの業態変革推進事業においても、屋上屋ともいえる手引書が発刊されたが、その趣旨は浸透せずに繰り返されてきた。各県工組を参加組合員の単位とする全印工連とは異なり、各企業と直接接点を持つ県工組は、整えられたロジック展開の指導書では受け入れられないことを実感している。その地域の特殊性を活かした訴え方や言い方に咀嚼されていなければならない。
 吉田理事長も自らの「寄り添う概念」についても、関心を持ってもらえるのは半数ぐらいだろうという。中小零細企業は、将来に向けてどうあるべきかということについては関心が薄い。「大印工組の平均従業員数は19名、社長の平均年齢は60歳です。40代、50代は、次世代を担っていく人なので、そういう意識を持っていますが、残念ながら60代以上の方は、どの程度の意識を持っているのだろうか」と現実をクールに分析している。
 「19人、20人規模の企業は平均社員年齢が50歳です。アンケート調査の結果が出ています。それを見ると年齢が高いので、ここにも問題があります。会社全体での意識変革が行いにくい状態になっている」と語る。
 吉田理事長のダイシンコラボレーションでも従業員の平均年齢は50代以下が5割以上となっていることから若返りを図る必要性に課題をもっているのだという。時代が求める技術や知識、常識、感性に追従できない側面を、どのようにカバーしていくかが経営トップの責務になってくる。
 「人・モノ・カネ」の3大経営資産の内の人の部分での若返りは、トップも含めて、従業員の若返りを必要とする。「印刷業を取り巻く環境は5年で様変わりをしていく。それに追従しなければ企業の改革はできない」という。
 「印刷業界は、大卒の人材が夢と希望を持てる業界なのだろうか。残念ながら、印刷というカテゴリーの中では期待できない。生産系よりもクリエイティブの分野が注目されている」。
 ダイシンコラボレーションは、企画・提案を軸に販促活動を支援するソリューション展開を強めているが、「それでも根本は印刷です。社名から印刷を取りましたが、印刷は手放せない大事なものであり、コンサル的な営業がこれから求められます。そうなると、ある程度の経験が必要になりますが、30人規模の会社は、若い人を入れても育てる余裕も時間もありません。百人規模であれば、調和をとりながら育てられますが、中小零細は明日を支える売上を確保しなければいけない。5年後、10年後になっても、そんな状態が続いているようでは進化発展は望めない」。
 全印工連の印刷道も同様のことを説いている。しかし現実はどうなのか、そのとおりにはいかない理想論になっている。「業態変革が必要だと常に言っていますが、なぜ業態変革をしなければいけないのかという疑問や不安から解き放されていない。アンケートでは組合の2割は業態変革ができていますが、それは若い経営者の所です」と吉田理事長は語る。

クリエイトとディレクション軸に
他産業に経験者を求める努力も

 若い、優れた頭脳を持つ人々がなぜ印刷業界に目を向けないのか。印刷を知らない人はいないが、同時に、印刷は、お客様の要求を再現する受注産業、仕事をクリエイトする産業ではなく「仕事をいただく枠組みの中での経営基盤」であることに発展性を見出していない。
 「今までの印刷業界は、社会に対して自分たちで何かを作り出して提供するというよりも、社会からいただく側でした。そこに違和感があって、主従関係みたいな行き止まり感を感じてしまうのかもしれません」。
 60周年で大印工組が打ち出した「これからの10年」で提示する視点は、プロモーション企業として「人と情報に寄り添う」ことを打ち出している。提案して一つの企画を動かしていく姿だ。受注という印刷のイメージから作り出していく創注産業を目指すことでもある。「機械設備のある大きな会社は、どんどん設備投資をして、品質管理をしてよいものを作る。これも一つの方向性ですが、それは大きな会社です。20~30人の会社では、資金や人材のこともあるので企画営業とディレクションの部分を強めた企業を目指す方向へ進むべきです」。
 現在、同社は企画とディレクションができる人材の確保に尽力している。
 その構想では「営業は仕事の案件を取ってくる。もしくはチームを組んで取ってきたら、あとは全部、企画、ディレクション、クリエイトに振って、最後に納品書を提示する。それが営業の仕事で、真ん中はディレクションとクリエイトに任せる流れ」にすることだ。
 改革を進める同社においても、まだ80%は旧名・大新印刷のころからのお客さんを引きずっている。「印刷屋」と思っている従来からのお客様は、言えばどんな要求でも聞いてくれると思っている。そうしたクライアントの目線を変える必要がある。だから、「営業は案件や情報をクリエイトとディレクションに流して、そこで企画して提案を持っていく。受注から創注に切り替えていく努力をしなければならない」という。営業という枠組みの中にゆとりをつくる。同氏は、これから何年も自分が社長ではいられない。今のうちにゆとりを生み出す仕組みづくりをしておく必要があると考えている。
 人材確保と合わせて、8年前にデジタルカラー印刷機を導入して、クリエイティブとプロデュース活動を軸にした営業展開を開始し、その3年後には「広告代理事業」へと発展させている。地元企業などの販促活動をプロデュースする機能を提供する形態を打ち出して、根本的な骨組み変革に着手している。
 「新しい風を入れなければならない。印刷業界とは異なる他の業種や産業で、何かをプロデュースする経験を積んだ人々を迎え入れることも必要でしょう。そうでないと印刷企業の機能は変えられない」と語る。(2015年7月20日号掲載)


吉田理事長